展覧会

包む-日本の伝統パッケージ

概要

展覧会名包む-日本の伝統パッケージ
会期2021年7月13日(火)~2021年9月5日(日)
休館日月曜日 ただし、8月9日(月・休)は開館し、8月10日(火)は休館
時間10:00〜18:00(入館は17:30まで)
観覧料一 般 800(600)円
大高生・65歳以上 600(500)円
中学生以下 無料
*障がいのある方とその付添者1名は無料。
*(  )内は20名以上の団体料金。
*目黒区内在住、在勤、在学の方は、受付で証明書類をご提示頂くと団体料金になります。
*各種割引の併用はできません。
主催等主催  公益財団法人目黒区芸術文化振興財団 目黒区美術館
企画協力 吉田知哉(株式会社コンセント)、佐賀一郎(多摩美術大学)

日本のデザイン黎明期に、わが国の伝統的なパッケージの収集と研究を続け、「TSUTSUMU(包む)」という言葉とともに大きな足跡を残したデザイナー、岡 秀行。木・竹・藁・土・紙―自然素材のパッケージに向けた岡の眼差しから見えてくる、「包む」ことに日本人が込めた想いや手わざの美を、当館所蔵の岡のコレクションによりご紹介します。

《卵つと》 山形県    (岡秀行著『包』(1972年、毎日新聞社)所収・酒井道一撮影)

 1972 年に出版された写真集『包』(毎日新聞社刊)は、すでに絶版となっているものの、愛蔵書として 今なお読み継がれています。この本の著者は 岡秀行(おか ひでゆき 1905ー1995)。 岡は、戦前からアー トディレクターとして活躍する一方で、木、竹、藁など自然の素材が生かされたパッケージに魅了され、 収集・研究を始め、藁の苞(つと)の素朴な美しさや、すし桶、菓子箱の職人技による伝統美に、日本人な らではの「美意識」と「心」を見いだし、「伝統パッケージ」と呼称を与え、書籍の出版や展覧会を通じて、 高度経済成長期の日本において消えつつある技術や美があることの啓蒙につとめました。
 1970 年代半ばには、岡のコレクションは世界巡回展へと発展し、「TSUTSUMU」(包む)という言葉と ともに大きな反響を呼びます。そして、このコレクションを日本の美術館で初めて本格的に紹介したの は、1988 年に当館が開催した「5 つの卵はいかにして包まれたか―日本の伝統パッケージ展」でした。こ れを機に当館は出品されたパッケージ群を岡より譲り受け、「〈包む〉コレクション」として収蔵してい ます。本展は、2011 年にその全容を紹介する展覧会を開催して以来、10 年ぶりの展覧です。
 「包むことについて考えるのは、人間の生活のすべてについて考えることに他ならない」。岡は 前掲 書の中でこのように述べています。そして、「私たちにとって、人間とは何か、生活とは何か、社会とは何 かを考えることは、つまりは私たちのこの生をどう包むかという問題だとさえいえるだろう」と。
 2021年の今、私たちは新型コロナウイルスの渦中にいます。 新しい生活様式で暮らす中、身近なものへの関心 や大切な人への想いなどが変化したように感じている方は多いのではないでしょうか。本展で展示す るパッケージは、製造されてから 30 年以上が経ち、自然素材ゆえの色褪せや割れといった経年変化が 見られます。しかし、この度の展示で、パッケージに向けられた岡のまなざしと、「包む」ことに込められ た日本人の心や手わざの美しさを見つめることは、岡が言うように、私たちの生を考える良い機会と言 えるのかもしれません。

岡 秀行の視点

 岡が収集した「伝統パッケージ」の特徴は、木、竹、笹、藁などわが国の風土に育まれた自然素材や、陶器、 和紙、絣(かすり)など、古来、日本人に馴染みある素材が使われている点がまず挙げられます。  
 そして、デザインの観点から言うと大きく二つに分けられます。一つは、「生活の知恵の結晶として生み 出された形」であるということ。実用性に重きをおき、余計なものが省かれた、シンプルな造形美と機能美 を見い出せます。もう一つは、伝統の技と言っても良い「高度な包装技術と美的感覚を持つもの」であると いうこと。“包むこと”自体に重要な意味づけをしてきた日本人の美意識と、“いかに美しく包むか“という 職人や作り手のプライドと手わざの美を見い出せます。  
 収集を始めた当初は、パッケージの “かたち” の美しさそのものに魅力を感じていましたが、「包むこと について考えるのは、人間の生活のすべてについて考えることに他ならない」(岡秀行「包装の原点」『包』 毎日新聞社刊、1972 年)と言うように、岡のまなざしは、しだいに“かたち”の奥にひそむ日本人の「心」へと 注がれていきました。

《釣瓶鮓》 奈良県/釣瓶鮓弥助

《ささらあめ》 宮城県/熊谷屋

《澤之鶴》 兵庫県/沢の鶴株式会社

《おひねり》

目黒区美術館と岡 秀行の〈包む〉コレクション

 岡による「伝統パッケージ」の展覧会は、1975 年のニューヨーク、ジャパンソサエティ・ギャラリーで の展覧会(ジャパン・ソサエティ主催)を皮切りに、全米各地を巡回した後、1979 年からは国際交流基金 の協賛のもと、1980 年代半ばにかけて世界各国で開催され、高い評価を得ていきました。  
 この海外での成果を踏まえ、岡とその関係者の方々が日本の美術館での展覧会と収蔵を模索していた 時期に、趣旨に賛同した当館が 1988 年に「5つの卵はいかにして包まれたか―日本の伝統パッケージ」展 として開催。これは、日本の公立美術館で岡のパッケージ・コレクションを紹介する最初の展覧会とな りました。同展終了後、当館は出品されたパッケージ群を岡より譲り受け、「〈包む〉コレクション」と名付 け、以来大切に保管してきました。 2011 年に当館で所蔵作品展として〈包む〉コレクションを紹介。 2021 年の今回は、当館での三度目の展覧会となります。

書斎での岡秀行 (1980 年代)

■ 岡 秀行(おか・ひでゆき) 1905-1995
 1905 年、福岡県生まれ。 1923 年に上京し、川端美術学校で洋画を学ぶ。 1935 年、図案と 写真撮影を行う「オカ・スタジオ」を銀座に設立。アートディレクター・システムを導入 したデザイン事務所の草分けとなる。戦後は、グラフ雑誌、宣伝広告、ポスターなどのデ ザインを広く手がけるほか、図案家のための職能団体確立に尽力。 1950 年の日本宣伝美 術会の設立に協力、1952 年には東京商業美術家協会(TCAA)を設立し、初代委員長に就 任、さらに 1962 年に地方 17 団体 326 人の図案家を結集した全国商業美術家連盟(ACA) を設立するなど、特に独立系の図案家の職能と地位の確立を目指した。  
 一方で、1950 年代より日本の伝統パッケージの収集と研究をはじめ、1964 年に全国商 業美術家連盟(ACA)の第 1 回企画展として伝統パッケージを展示。その後、写真集『日本 の伝統パッケージ』(美術出版社、1965 年)や、『包』(毎日新聞社、1972 年)を出版。 1975 年、 岡 70 歳の時に、ニューヨークから始まり世界巡回した「TSUTSUMU」展は 10 年以上にわ たり 28 カ国で開催され、日本の公立美術館では、1988 年に目黒区美術館の「5 つの卵はい かにして包まれたか―日本の伝統パッケージ」展で初めて紹介された。
本展の構成

《岡山獅子》 岡山県/中尾正栄堂

木、竹、土、藁、紙、布―自然の素材を生かし、職人気質に守られ、昔から 「本物」の姿を保ち続けられてきた「日本の伝統パッケージ」の数々。そこ に宿る、日本人の自然観と美意識。そして、微妙な手わざによる造形美。 本展では、それらを岡秀行の視点を交えながら紹介します。  展示については、岡の収集コンセプトに基づき、パッケージは主に素材 別に分けて展示します。包装素材が植物の葉など保管のできないものや 一部のパッケージについては写真での展示となる予定です。

【「岡秀行旧蔵〈包む〉コレクション」の分類 】
A: 木  B: 竹   C: その他自然素材   D: 土   E: 藁  F: 紙  G: 布   H: その他

【主な出品物】
「釣瓶鮨」 「稲庭饂飩」 「金千両」 「卵つと」 「巻鰤」 「ささらあめ」 「御香煎」 「柿羊羹」 「霞三盆」 「大徳寺饅頭」 「岡山獅子」 「琉球泡盛」 「十六味地黄保命酒」 「文楽人形焼」 「祝儀袋」  
など約 400 点を予定

※展示するコレクションのほとんどは、食品、菓子、酒類の包装・容器(パッケージ)です。
※一部のパッケージは、経年劣化のみられるものがあるため、現在は製造されていない等入手が困難なものは、実物の展示はなく写真パネルでの紹介とする場合があります。現行商品で同じ仕様のパッケージがあるものは、新しいものを展示する場合もあります。
※展示で使用する写真、本プレスリリース及び本展広報用印刷物などで使用するパッケージの写真はすべて、自著・写真集刊行のために岡秀行のディレクションにより主に 1960 年代~ 70 年代に撮影された写真です。本展に出品する〈包む〉コレクションのパッケージの大半は、それ以降に製造されたものであるため、使用する写真と出品物のデザインや仕様が異なる場合があります。ご了承ください。

関連イベント

「包む―日本の伝統パッケージ」開催記念トークイベント 「デザイン史から学ぶ、岡秀行と日本の伝統パッケージ」

タイトル「包む ― 日本の伝統パッケージ」展 開催記念トークイベント
「デザイン史から学ぶ、岡秀行と日本の伝統パッケージ」
日時2021年7月25日(日) 14:30~16:00
講師佐賀一郎(多摩美術大学准教授 / デザイン史家)、吉田知哉(株式会社コンセント / 編集者)
会場目黒区美術館 本館1階 ワークショップ室

佐賀一郎(さがいちろう) (多摩美術大学グラフィックデザイン学科准教授/デザイン史家)
1976年宮崎県延岡市生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン学科准教授。慶應義塾大学総合政策学部を卒業後、IT会社勤務を経て女子美術大学大学院に進み、美術博士号を取得。近代以降のデザイン/タイポグラフィ史、デジタルアーカイヴを研究。共著『活字印刷の文化史』(勉誠出版、2009)、監訳・解題書『遊びある真剣、真剣な遊び、私の人生』(ビー・エヌ・エヌ新社、2018)、解説書『包む:日本の伝統パッケージ、その原点とデザイン 』(コンセント、2019)、監修『20世紀のポスター[図像と文字の風景]ビジュアルコミュニケーションは可能か? 』(図録、東京都庭園美術館・日本経済新聞社、2021)など。

吉田知哉(よしだともや)(株式会社コンセント/編集者)
編集者、クリエイティブディレクター。株式会社コンセント Design Leadership所属。ブランディング支援、メディア戦略支援、事業開発支援、出版事業等に従事。デザイン関連書を数多く手がけており、主な仕事としては『ブルーノ・ムナーリの本たち』(東京ADC賞)、森岡督行『BOOKS ON JAPAN 1931‒1972 日本の対外宣伝グラフ誌』、ヨゼフ・ミューラー゠ブロックマン『遊びある真剣、真剣な遊び、私の人生 解題:美学としてのグリッドシステム』、岡秀行編著『包:日本の伝統パッケージ、その原点とデザイン』等がある。「一冊の本を売る本屋」で知られる、株式会社森岡書店の共同経営者でもある。

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